2014-01-01から1年間の記事一覧

緑影

森のなかの小川のほとりに白い花が咲いていた。黒く濡れた石の間から、すらりとした茎をのばし、縁に細かな切れ込みのある葉を幾枚も大きく広げ、小さな四枚の花弁からなる花を、茎の頂に、花冠のように群がり咲かせていた。なずなに少し似ていたが、ひとつ…

夕鐘

世界の果ての岩山の頂に、石造りの巨大な塔がある。やはり石造りの、ただの四角い箱でしかないような、まったく装飾のない三階建ての建物を台座として、その数倍の高さの、これも何の飾り気もない、単に細長く引きのばされた円錐形というばかりの塔が載って…

老残

美しかろう、林立する石柱、巨大な石壁、そこに彫られた無数の神々の姿は。旅人よ、お前が今の今まで驚きの目をみはり、息をのんで見ていたものは、古代の神々の形見なのだ。今は私の姿に驚いているようだが、この荒野のただなかに見捨てられ、忘れ去られた…

訪問記

地元の医科大学の標本室に、特別に入室する許可を得た。通常、学外の者については、医療関係者のほかは入室を認められないのである。たまたま私の知人がその大学で教鞭を執っており、頼んでみたところ、案外すんなりと許可が下りた。標本と呼ばれてはいるも…