2010-12-01から1ヶ月間の記事一覧

秋の野原で

秋の光のきらめく野原で、孤独な少女が神に出会った。吾亦紅や松虫草を揺らす風のなかに、白くあえかな神の姿がたたずむのを彼女は見た。おぼろな面影が優しく微笑むのを見た。知らない面影、しかし懐かしい面影であった。彼女はそちらへ歩み寄り、しかし、…

清祓

喜ばしきかな! 私はどこにもいない。消えてしまった。もはや私を照らす日の光はなく、私の姿を映す水の面もない。風は私といかなる関わりも持たない大地の上を吹いてゆく。大地には草が茂り、花が咲く。すべてが、かつてよりも軽やかになった。私を支える必…

鳩笛

小学校の物置の、奥の壁際の棚の上に、幼い少女の姿をした人形が座っている。あきらかに長い間、誰からも構われることのなかった人形である。埃をかぶり、衣装はいたみ、肌は変色して青灰色がかってみえる。四肢のつなぎ目が少し緩くなっているようで、首は…

足あと

眠いけれども寝つかれず、私はベッドから身を起こし、すぐ近くにある窓のカーテンを少しだけ開いて、外を見た。ホテルの上階から見下ろす、この小さな町は、もう寝静まっている。人影はほとんどなく、走る車もまばらである。車道の信号は点滅を続け、融雪装…