2002-01-01から1年間の記事一覧

黄色い花

花、花、花。私のまわりに見渡すかぎりの黄色い花。当惑して立ちすくむ私のまわりに咲き誇る無数の花。地平のかぎりに咲き乱れる大輪の花。ここがどこであるのか知らない。どうしてここへ来たのかおぼえていない。ここへ来る前のことはすべて忘れてしまった…

十字架

明るい広間に、何もなく、ただ十字架がひとつ立っていた。そこにかけられていたのは、私自身であった。私が、十字架にかけられた私自身を見上げていた。十字架上の私の身体の、いたるところから血と膿が流れていた。その身体は白い薄衣をまとっていたが、薄…

夜の森

あなたの愛した森に、あなたの愛した美しい闇が、今夜も訪れた。夜々変わらず、昔から、またこの先も、変わることなく繰り返し訪れる、深い闇と静謐、ただ、あなただけがここにいない。あなた自身もまた、この先も変わることなく、夜ごとに、この美しい森の…

夜の海

あなたは海を見ている。あなたの静かなまなざしが、眼鏡越しに、硝子窓の外の海へとそそがれている。窓の外は夜で、強い風が吹いている。空は雲に覆われているが、ときおりその隙から月の光が淡くさし、海面をほのかに照らす。風にあおられた白波が見える。…

薔薇

幼い頃の私に与えられていた部屋、それは数年の後には私の両親の寝室になったのだが、いずれにせよ今は存在しないその部屋に、西向きの窓からの明るい夕日がさしこんでいた。それで部屋の中は赤みがかった金色の光に満たされていた。いたるところ黄金で装飾…

浜辺

私は浜辺を歩いていた。朝日が昇る前の、すみれ色の薄明かりが空に広がり、海に映り、砂浜をほのかに照らしていた。私のほかには誰もいなかった。波の音のほかには何も聴こえなかった。風は水平線のかなたからごく静かに吹いていて、防風林の松もかすかな葉…