日はまだ昇らない。月もない。暗闇の中に、波の音と、彼女の小さな足音が聞こえる。彼女は手探りで歩いている。幾度も転んだ彼女の足は、傷つき、血が流れている。波の音が聞こえてくるほうに、ともし火がひとつ見える。そのともし火が、招いているような気…
赤い布で覆われたミイラがある。黒みをおびた、凝血を連想させる赤である。太い毛糸で織られた厚い織物で、頭からつま先までがゆるく巻かれているが、顔は露出している。口を大きく開いたまま、枯草色にひからびている。声のない叫びを永遠に叫びつづけてい…
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