2003-01-01から1年間の記事一覧

早速のお返事ありがとうございます。 さて問題の件ですが、われわれの肉体というものは、要するに「卵」ではないかと思うのです。かつて私は、自分の肉体に、いや、すべての人間の肉体に、何かが欠けている、という印象をぼんやりと抱いていました。そしてあ…

人形

夜明け前の街路を歩いてゆく男があった。空に月はなく、街灯もその道には少なかったが、男はさらにその街灯も避け、暗闇を選んで歩いていた。街路樹はすでに葉を落とし、石畳の冷たさが靴底から伝わって足裏をしびれさせた。彼は古びたハンティング帽を目深…

小舟

灰色の薄明のなかに、鉛色の川が流れていた。雑草に覆われた、誰もいない川辺を私は歩いていた。 ただひとり、真っ白な衣装を身にまとった乙女が、川岸から小舟を出そうとしている姿が見えた。近付いてみると、ごく華奢な、美しい娘であった。髪は黒く長く、…

青空

君を殺そう。もはや君が君であり、私が私であるという、二人を隔てる障壁は存在しなくなるだろう。君を扼殺する私の手に、私に抗う君の渾身の力、恐怖にたかまる君の脈、君の中で狂奔する血の熱さが伝わり、それらが失われるまぎわの極点において、君の生命…