2000-01-01から1年間の記事一覧

折り鶴

山の奥深くに寂れはてた寺があり、そして他に何もなかった。寺にいたる唯一の道すらも草に覆われて消えていた。ところどころに剥落のある白壁のまぎわまで、森の木々が迫ってきていた。壁といわず屋根といわず、いたるところに蔦が這いのぼっていた。かつて…

石畳

空は青く、青く、青かった。白い石畳が真夏の陽光に照りつけられて燦爛と輝いていた。それがどこであったのかよく分からない。古代神殿の庭のようだった。が、それはありえない。現代である。現代の最もありふれた公共施設の敷地の一角である。 まわりに人が…

桃園

日の光はぬくもりを帯びてきていたが、風はまだ冷たかった。山の木々はほとんど冬枯れの姿のままだったが、すでに雪は溶けて、ところどころに下草の芽が伸びはじめていた。よい天気だったが、春がすみのために青空がいくぶん白っぽくみえた。山の奥、人里か…