黄色い花

 花、花、花。私のまわりに見渡すかぎりの黄色い花。当惑して立ちすくむ私のまわりに咲き誇る無数の花。地平のかぎりに咲き乱れる大輪の花。ここがどこであるのか知らない。どうしてここへ来たのかおぼえていない。ここへ来る前のことはすべて忘れてしまった。私が誰であったのかすら記憶にない。花々に足をすくわれて私は倒れ、花々の海におぼれる。私の視界を埋めつくす黄色い花。私の肢体を埋めつくす黄色い花。すべての花が一斉に光を放つ。すべての花が金色に燃えあがる。輝きは天を灼く。全天が燃えあがる。炎が私を歓待する。炎は私の当惑を光のうちに熔解する。光のうちで私の意識は花たちと融合する。私は花である、花々は私である。私は恍惚として、黄金の花々のなかで私は笑う。
 
 風よ、風。お前がこの世の無情な刑吏として、かつて花々の生命を吹き散らしたように、今度は花々が、お前とこの世を吹き散らす。
 いまや花は恐るべき怪物と化し、この世のすべてを押しつぶす。毒々しい光沢をおびた厚ぼったい葉があらゆるものを覆い、窒息させる。爬虫類じみた茎があらゆるものにからみつき、扼殺する。花、花、花、黄金の花が、無数の花が、まばゆい金色がこの世のすべてを塗り込める。花々はこの世の終わりを告げる天使の軍勢である。天使こそは聖なる怪物である。天使はすべてを破壊する。その黄金の輝きは聖なるトランペットの響きである。視覚によって捉えられる嚠喨たる金管の音である。彼らは永遠に神とともにある。私は永遠に神とともにある。この世は終わる。この世のすべてが燃えあがる花々にうずもれる。
 
 聖なるかな聖なるかな聖なるかな。私のまわりで荒れ狂う金色の花々。すべてが燃える。すべてが光につつまれる。すべてが終わる。花は無数の死を覆って咲く。永遠の生命が有限の生命を覆いつくす。私は黄金の花々のなかで笑う。私は神である。