荒蕪

 夜ごと私に語りかけてくれる木々が、今夜はなにも語りかけてくれない。ほかの夜々にはあれほど生気に満ちていた森の景色が、今夜は荒涼としてみえる。しかし、それは実は私の錯覚なのである。彼らは普段と変わりはしない。ただ私自身の心がおし黙っているのである。私の心が荒れているのである。
 慰めを求めれば、彼らはいっそう黙り込む。なんという冷淡さだろう。だが、それも違う。荒れた心はあまりに多くを相手に求め、そんな心には、彼らの優しい声が届かない。