過失

 眠っていた。何かしなくてはならないことがあるのだと、心のどこかで思いながら、いつの間にか深い眠りに落ちていた。私は飛び起きたが、頭はまだ半ばは眠っている。しなくてはならないことが何であったのかも思い出せないままに、ただ後悔と焦燥に追い立てられながら、私は家の外へ駆け出した。すでに日は高い!
 真夏の光が降りそそいでいる。街路も建物も白く輝いている。人の姿が見えない。誰もいない。いや、彼らが路面に落とす影だけがある。陽光をさえぎって、黒々として地表を動いてゆく。人々の影があり、自転車の影、自動車の影が走る。それらを見るかぎり、街はいつもと変わらぬ生活を続けているようだ。ただ、それらは影にすぎないのである。そうした生活のたてる物音は聞こえるが、その響きはうつろで遠い。
 私は途方に暮れた。世界は変わり果ててしまった。ひとえに、これは私の過失がもたらした結果であるのに違いなかった。かつての、あの懐かしい人々の世界は、失われて、もう二度と戻ってこない。世界は死んでしまった。亡霊になってしまった。私はおのれの過失の重さに慄然とした。私は取り返しのつかないことをしてしまった!